大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所松江支部 昭和26年(ネ)53号 判決

控訴人が昭和二十三年六月二十二日別紙目録記載の土地(原判決別紙目録記載を引用する)(一)(三)についてなした訴願棄却裁決はこれを取消す。

鳥取県東伯郡三徳村農地委員会が同年四月九日同目録記載の土地(一)(二)(三)について樹立した買収計画はこれを取消す。

被控訴人その余の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じて控訴人の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は控訴の趣旨として原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする旨の判決を求め、被控訴人は本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は双方において当審で次の通り附加して述べた外原判決摘示(別紙目録を含む)の通りであるからこゝにこれを引用する。

第一、控訴代理人の陳述。

(1)  被控訴人は当初訴状において取消を求めた行政処分の対象は原判決摘示の別紙目録記載の(一)(三)の二筆の土地であつたが昭和二十四年七月付の請求の趣旨原因変更申立書により脱落ありとして東伯郡三徳村大字坂本字上野四〇六ノ一畑五畝歩の一筆を追加した。然るところ右土地に対する買収計画については被控訴人は異議の申立並に訴願をしていないので従て裁決にも含まれていないのであるから訴願前置主義に違反せるものでこの部分につき本件訴訟は不適法として却下せられるべきである。

(2)  本件買収計画の正当性は次の通りである。

(イ)  本件土地は上野地区未墾地買収計画の内であつてその余の買収地三町有余の地盤の西南端に位置し坂本部落へ通ずる咽喉を扼している地域である。それ故奥地の開発のためにはこれを利用することが絶対に必要であるがこれを従来の如く被控訴人の自由権限に委せるときは奥地の開発は被控訴人の恣意により阻害せられることとなり食糧増産の国家的要請により急速に成果を挙ぐべき未墾地開拓の精神を没却することとなる。

(ロ)  被控訴人は道路の敷設については所要敷地を提供する旨村農地委員会に申出でていると言うけれどもこれは被控訴人の法律上の義務を決定ずけるものでないのみならず道路計画の細目にわたり被控訴人の抗争を除くことはできない。元来公共団体の施設については土地収用法により収用し得るのであるが収用法の手続は煩鎖で短時日に解決し難く迅速強力に推進すべき農地改革に適応させるため収用法に対する特別手続の性格において自作農創設特別措置法第三十条第一項第三号が規定せられたものとも解せらるべく単に被控訴人が道路敷地の提供のみによつてこの計画を阻止せんとすることは許し得ない。

(ハ)  本件土地は未墾地買収の情勢を察知しこれを免れんため昭和二十一年四月急遽田口徳平、田口岩太郎、房安敏平に依託して刈山と称する簡単な開墾をなさしめたもので実質においては自作したものと言い得ないのみならず又何時でも荒廃に帰し自然林の簇生に委する惧れ多分にあり是非区画を整理して新な買得者に開墾上の法的責任を課する必要がある。

(3)  本件土地は昭和二十三年四月本計画樹立の際の調査によれば原判決摘示の別紙目録記載の(一)は八パーセント(二)は百パーセント(三)は九パーセント開墾せられていたがそれは山林伐採跡地を稍整地したと言う程度でその表面によつてこのパーセンテージを出したに過ぎず完全農地とは認められず従て供出の対象ともなつていないから右(一)(三)の土地を自作農創設特別措置法第三十条第一項第一号で右(二)の土地を同項第三号で買収し若し(一)(三)が第一号に該当しない場合は第二号で買収することにしたのである。

第二、被控訴人の陳述。

(1)  昭和二十三年春三徳村農地委員会の未墾地買収計画予定簿には被控訴人所有の土地は字上野四〇一の一、一五反一一三、同四〇六の二、〇反九〇〇の二筆記載してあるのみで、当時は未だ測量をしていなかつたが訴願当時は漸く測量を終つたばかりであり図面、買収地面積は未だ出来ていなかつたので三徳村現助役福安氏(測量者の内の一人)に尋ねたところ「貴下の買収地は三反位だ」と答えたので訴願には二筆三反と書いた。ところが行政訴訟当時は図面計画簿が完備し被控訴人の買収地は三筆で面積は六反一二〇であることが判明した。三筆共同じ既墾地だから一筆だけ分離する筈なく予定簿に記載してなかつたのでか様な結果になつたものである。

(2)  道路はずつと以前から本件土地についており奥の買収地に通じておる。今更ら新設の要はない。急坂なる故車道は不可能である。仮りに道路に必要としてもその敷地のみ買収すればよく六反余を買収する必要は更にない。それに本件土地より下位の県道に接する山道所在地も買収せねばならぬわけである。

(3)  奥地の未墾地は昭和二十五年春個人に売渡され同年開墾を終り何等支障なく耕作を続けておる。この事実よりして本件土地は買収せずとも奥地の開発には何等支障なきことを証明するものである。

(4)  本件土地は一部は昭和二十年その余は昭和二十一年に開墾を終つたので二年先の昭和二十三年の未墾地買収あることを予知し開墾する筈がない。本件土地は昭和二十一年以後は全部農地であつたものであり被控訴人において自作したのは一部は昭和二十年よりその余は昭和二十二年よりであり爾来現在に至るまで食糧増産を続けておるものである。(立証省略)

三、理  由

原判決摘示の別紙目録記載の土地三筆が昭和二十三年四月九日当時において被控訴人の所有であつたこと、鳥取県東伯郡三徳村農地委員会が同日右土地について買収計画を樹立したこと、被控訴人がこれを不服として右目録土地中(一)(三)の土地について同月十五日同委員会に異議の申立をしたところ棄却せられたので更に同年五月八日控訴人に訴願を提起したところ、その訴願も亦同年六月二十二日棄却せられその裁決が同年七月二日被控訴人に通告せられたこと、右目録土地中(二)の土地が本件買収計画樹立当時農地(畑)であつたこと、右農地に対する買収計画が自作農創設特別措置法第三十条第一項第三号によるものであることは当事者間争のないところである。

控訴代理人は右(二)の土地に対する買収計画については被控訴人は異議の申立並に訴願をしていないので、従つて裁決にも含まれていないのに拘わらず本件訴訟を提起したことは訴願前置主義に違反しこの部分については本件訴訟は不適法として却下せらるべきであると主張するので先ずこの点について判断する。

右(二)の土地について被控訴人は異議の申立も訴願もしなかつたこと、従つてこの土地が訴願裁決の対象になつていなかつたことは被控訴人において明かに争わず、又弁論の全趣旨により右事実を争つたものとも認められないからこれを自白したものと看做す。ところが被控訴人が当初訴状において取消を求めた行政処分の対象は前示(一)(三)の土地であつたが昭和二十四年三月二十三日付請求の趣旨原因変更申立書により脱落ありとして東伯郡三徳村大字坂本字上野四〇六ノ一畑五畝歩(右(二)の土地を指す)一筆を追加したことは本件記録中の訴状並に昭和二十四年三月二十三日付原告代理人田中秀次名義の請求の趣旨原因変更申立書記載に照し明かである。原審における被控訴人本人の供述に当事者弁論の全趣旨を綜合すると昭和二十三年春三徳村農地委員会において本件土地買収計画を樹立した当時はやつと実地の測量を終つたばかりで製図も出来ておらず被控訴人において買収の対象たる地番及び反別が判明しなかつたので同農地委員会に対しこの点を問合せたところ係員が右(一)(三)の二筆で三反位だと言うのでこの土地に対し異議を申立て更に訴願を提起したこと、その後行政訴訟当時図面計画簿が完備しこれによると本件買収の対象となる土地は右(一)(二)(三)の土地三筆であることが明かとなつたので、被控訴人においては右(二)の土地を本件訴訟の対象に加えたこと、被控訴人において当初より右(二)の土地が本件買収計画の対象となつておることを明かに知り得たならば当然この土地に対する関係においても異議を申立て訴願を提起していたことが明瞭であることを認めることができる。この認定に抵触する当審における証人淀瀬順三の供述は措信しない。そうだとすればか様な場合にも同被控訴人に対し右(二)の土地に対する異議の申立訴願提起の手続を踏むことを求めるのは難きを強いるものであつて行政事件訴訟特例法第二条但し書に所謂正当の事由あるものと解するを相当とする。されば右(二)の土地に対する関係において異議の申立訴願提起の手続を踏まずして提起された本件取消訴訟は適法であつて控訴代理人の主張は採用し難い。尤もこの土地が訴願裁決の対象となつておらないことは前敍の通りであるからその対象となつておるものとして提起された被控訴人の本件訴願裁決の取消を求める部分は失当として排斥を免れない。

次に原判決摘示の別紙目録記載(一)(三)の土地が昭和二十三年四月九日三徳村農地委員会において本件土地買収計画を樹立した当時農地であつたか否かを判断する。

成立に争のない甲第一号証、乙第四号証、原審における証人中川静雄(一部)、被控訴人本人の各供述に当事者弁論の全趣旨を綜合すれば右(一)(三)の土地はもと杉林であつたが被控訴人において昭和二十一年中に開墾を終り翌二十二年以来被控訴人において大豆小豆甘藷等を栽培していた畑即ち農地であつたことを認めることができる。右認定に抵触する原審における証人山本一市、中川静雄(一部)当審における証人福安友吉、淀瀬順三の各供述は措信し難く他に右認定を覆すに足る証拠はない。

そうだとすれば右(一)(三)の土地を自作農創設特別措置法第三十条第一項第一号により買収することは同号が農地及び牧野以外の土地の買収を前提とする以上その違法なること勿論で此の点に関する控訴人代理人の主張は理由のないものと言わねばならぬ。

次に本件三筆の土地全部を右措置法第三十条第一項第三号により買収したとの控訴代理人の主張について判断する。

本件土地の東北に開発すべき未墾地である鳥取県東伯郡三徳村大字坂本字上野四百二十二番、四百二十一番、四百八番、四百九番の一、二、四百二十番の一が一団をなして隣接していたこと、本件土地の西南に坂本部落のあることは当事者間に争がない。控訴代理人はこの未墾地と同部落をつなぐ道路を敷設する必要がある旨主張するけれども元来右措置法第三十条第一項第三号に所謂農地で併せ開発するのを相当とするものとは未墾地附近にある農地をそれと一括して開拓地とすることが適当な場合を指すものと解するを相当とするから未墾地の便益のためにする道路敷設の必要があるとして同号による買収はできないものと言わねばならぬ。更に控訴代理人は本件土地は刈畑の性質上山林原野化するおそれありこれを妨ぐため買収する必要がある旨主張するが、控訴代理人の全立証によるもこれを認めるに足る証拠がないのみならず原審における被控訴人本人の供述に当審検証の結果を綜合すれば被控訴人は本件農地の外に畑三反六畝歩を耕作してはおるけれども農業が唯一の生活の糧であつて昭和二十二年以来現在に至る迄熱心に本件農地を耕作しつづけており将来も亦その決心であることが窺われるから、被控訴人のこの努力と熱意とを以てすれば控訴代理人の右主張は単なる杞憂に過ぎないものと言わねばならぬ。控訴代理人は更に本件土地附近一帯に区画整理をする必要があると主張するが単にか様な理由で前示第三号による買収が可能であるとすることは同号の解釈上どこからも出てこない。更に本件土地は被控訴人が独力で開墾したものでないから買収に当り被控訴人の本件土地に対する執着心を特別に考慮する必要はないと主張するがこの事実は本件買収を正当とする積極的の理由とはならない。その他控訴代理人が本件買収計画を正当づける理由として主張する(イ)乃至(ハ)の点(事実摘示欄参照)は何れも控訴代理人独自の見解であつて本件買収計画を正当とする何等の理由とはならない。特に右(ハ)の被控訴人において未墾地買収の情勢を察知してこれを免れんため昭和二十一年四月急遽他の者に依頼し開墾をなさしめたとの主張については、原審における被控訴人本人の供述によればさ様な事情により開墾したものではなく開墾して食糧を増産せねば生活ができないからであることを窺知することができ右認定に抵触する当審における証人淀瀬順三の供述は措信しない。されば本件土地につき前示第三号に該当する事由の存したことに関する控訴代理人の主張は何れもこれを採用し難い。

そうすると本件買収計画は右規定に該当する事由がないのに右規定に基き樹立されたことに帰するから違法であり従つて前示(一)(三)の土地について右買収計画を容認した控訴人の訴願棄却裁決も失当であると言わねばならぬ。前説示の通り前示(二)の土地について訴願棄却裁決がなされたことを前提とする被控訴人の本訴請求はこの部分に限り失当として棄却を免れない。されば被控訴人の本件請求を全部容認した原判決は主文掲記の通り変更することとし訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条第九十二条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 平井林 藤間忠顕 組原政男)

(目録省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!